長期休業中の「研修」と承認手続について2003.7.7

■職務としての「研修」
 授業や特別活動などの教育活動をおこなうにあたっては,専門分野に関する知識や技能はもちろん,それにとどまらない幅広い教養や知見が必要とされます。教員にはたえず自らの知識や教養を高めるための努力が求められます。教育公務員特例法は「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養につとめなければならない」(第19条)と規定し,教員に絶えざる「研修」(「研究」と「修養」)を義務づけています。
 「研修」は,「教育」という教員の職務を遂行するうえで不可欠のものであることから,「研修」それ自体も教員の職務として法によって義務づけられているのです。
 研修が職務であるといっても,任命権者(教育委員会)や所属長(校長)から命令され,その指示通りに,受動的に「研修」をおこなうという意味ではありません。教員がみずから主体的に「研修」をおこなうのではなく,指示を受けた時だけ行政当局の用意した講習を受けるというのでは,「絶えず研究と修養につとめ」ることなど到底不可能です。教育公務員特例法にいう「研修」は,教員が自主的,主体的に取り組むことではじめて遂行される職務です。
 (「絶えず研究と修養につとめなければならない」といっても,勤務時間外や休日も含め,一年365日,一日24時間,常に研修しなければならないという意味ではありません。職務としての研修は,あくまで勤務時間内に職務〔勤務,公務〕としておこなうものです。)

■「研究」と「修養」
 教育公務員特例法にいう研修とは「研究」と「修養」を縮めた語です。「研究」とは「よく調べ考えて真理をきわめること」であり,「修養」とは「精神を錬磨し,高度の人格を形成するようにつとめること」とされます(『広辞苑』)。研修は,教科など教育活動の内容についての「研究」にとどまらず,見識や人格を高めるための「修養」にも及ぶものです。
 研修に関して,「担当する教科」に「密接」な関係がなければならないとか,「直接」の関係がなければならないとして,つよい制限を加えようとする議論がありますが,「密接」とか「直接」という語もかなり曖昧であるうえ,こうした制限自体が,教育公務員特例法の定める「研修」の趣旨をわきまえない軽率な見解であり失当です。

■「勤務場所を離れて」おこなう研修
 教育公務員特例法第20条第2項は「教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修をおこなうことができる」と規定しています。(ここでの「教員」には校長は含まれません〔教育公務員特例法第2条第2項,同法施行令第3条〕。)
 本属長(校長)が承認するのは,「勤務場所を離れる」ことです。「研修」は,教育公務員特例法が教員に義務づけた職務であり,研修それ自体を承認しないことは法律違反であり,許されていません。
 「勤務場所を離れ」ることについてだけ,校長による「承認」が必要となりますが,恣意的な承認ないし不承認が許されているわけではありません。「承認」は,法律の趣旨に合致する客観的で合理的な判断でなければなりません。「承認」するにあたっての要件は,「授業」に対する「支障」の有無です。
 「夏休み」などの長期休業中であれば,授業への支障の有無の判断は容易です。教員が「勤務場所を離れ」ての「研修」承認を求めたのに対して,授業に支障がないにもかかわらず承認を拒んだりすれば,教員の職務遂行を不当に妨害することになります。
 (なお,授業への「支障」についても,授業日にはいかなる研修もできないとの趣旨であると,単純に考えるべきでもありません。高教研〔茨城県高等学校教育研究会〕による研修であれば,授業日であっても「勤務場所を離れ」ることが承認されているうえ,出張旅費と日当まで支給されています。長期休業日などに,書籍代,交通費,入場料等すべて自己負担でおこなう研修について,校長が「承認」を渋るとすれば,高教研企画の研修の場合と,著しいアンバランスを生ずることになります。)

■職務専念義務免除研修という背理
 文部科学省と,その指導を受けた茨城県教育委員会は,教育公務員特例法20条第2項の規定する研修について「職務専念義務免除研修」(「職専免研修」)と呼ぶことにしています。職務である研修をあえて「職務専念義務免除研修」と呼び,しかも「職務専念義務」を「免除」したあとの「職務」外の行為について,あれこれ指導するというのですから矛盾しています。
 「研修」は「権利」ではなく,「年休」や「特休」(いずれも職務専念義務免除の一形態)とは違うとしつつ(ここまでは正しいのですが),しかし「職務専念義務免除研修」などという矛盾した用語(「丸い四角」)を使っては混乱をひきおこし,収拾がつかなくなります。
 苦し紛れに,「勤務場所を離れ」るから「職務専念義務免除」なのだと校長らは言うようです。しかし,そういう屁理屈では「勤務場所を離れ」る出張用務がすべて職務(勤務,公務)でなくなってしまいます。職務である研修の勤務形態について「職務専念義務免除」だとすることの矛盾については,もう2年以上前から指摘していますが,教育行政当局は意固地になって改めようとしません。

■研修をおこなう場所
 話をもどしましょう。
 研修をおこなう場所はさまざまです。文献を検索するには図書館,書店へ行く必要があり,さまざまの資料や実物,実演に接するには博物館,資料館,美術館,劇場,演奏会場でなければ不可能です。
 講演会や学習会,研究会に参加するには会場に出向かなければなりません。さまざまな環境,地形,景観,遺跡を見聞するには,国内,国外の目的地への旅行が必要です。また,野外活動の体験には,それに適した場所に行く必要があります。
 昨年度以来,「自宅でなければならない理由を示せなければ,自宅での研修は認めない」として,校長,教頭らが意味もなく出勤を強いる事例が見られます。教特法第20条第2項の規定は,授業に支障がなければ勤務場所を離れ(て研修す)ることを許可するものであり,「自宅でなければならない理由」を明示することまで要求しているわけではありません。そこまでいうのなら逆に「自宅であってはならない理由」を挙げてもらいたいものです。そのような立証は不可能でしょう。(勤務する場所は勤務先が原則だ,などという同語反復は通用しません。)
 しかし,ここではあえて校長らの要望に応えて,自宅で研修業務をおこなうことが妥当と考えられる理由をいくつか示すことにしましょう。
 検索した文書や資料の整理,熟読,検討,教材化をおこなう場合,学校が適当な場所となっているかどうか,すこし考えてみましょう。学校には「研修室」「研究室」等が整備されていないうえ,「職員室」はほとんどの学校で労働安全衛生法や施行規則の規定する最低基準を満たしていません。法令の基準以下の狭くて雑然とした職員室で,小さな机をひとつ与えられているだけの状態では,勤務場所での研修は著しく困難です。自宅に置いてある書籍,事典,資料などもそのつど運搬しなければなりません。職員室よりも,自宅でおこなう方がずっと能率が上がるのは明らかです。
 県教育委員会が推進する「IT」(information technology)を活用した授業のための教材の検索,コンテンツ作成をおこなうにしても,いまだに1人1台のパーソナルコンピュータの割り当てすらなされていない現状では(その見通しすら立っていません。今年度はとうとう新規購入差し止めとなりました。),自宅のコンピュータを使わざるを得ないでしょう。
 「自宅でなければならない理由」などと言っていますが,逆に「学校でなければならない理由」は何かと聞かれたら,いちばん困るのは校長でしょう。教員に毎日出勤しろと言う前に,職場環境の整備はもちろん,研究用の書籍,コンピュータの完備,教員専用の図書室,研究室などの各種施設,設備類の導入,さらにひろく快適な職場環境の実現や福利厚生の向上のための努力が求められているのです。
 (本筋からは外れますが,「自宅研修」は,在宅勤務の一形態であり,省エネルギー,交通渋滞緩和,勤務時間の有効活用の観点から今後いっそう奨励されるべきものです。)

■「研修計画書」と「研修結果報告書」
 昨年度,文部科学省の指導のもと,茨城県教育委員会は,あらたに「研修計画書」と「研修結果報告書」の提出を求めることとしました。勤務場所での研修にはいかなる手続も必要とされないのに,勤務場所を離れるに際してだけ詳細に計画と結果の報告を求めるのは,一貫性に欠けるものです。
 とはいえ,勤務時間中に各教員がどこで何をしているのかについて,所属の長たる校長が一切把握していないというのでは問題があります。そもそも,一定の期間にわたって研修をおこなうに際しては,当の教員は,研修内容について何らかの計画を立案すべきでしょう。
 したがって,「勤務場所を離れて」おこなう研修にあたって,教員が事前に計画を作成してその概略を記しておき,所属長にその写しを示すこと,そして研修実施のつど遂行した業務の内容について概略を記しておき,所属長にその写しを示すことは,職務(研修)の遂行という性格上,妥当なことといえます。

■実態にあわない「研修計画書」と「結果報告書」
 しかしながら,読んだ本の書名を具体的に明記しなければならないとか,あるいは証拠となる写真や入場券の提出を必要とするのでは(東京都の例),あきらかに行き過ぎです。また個人情報保護条例上,収集すべきでない個人情報を収集することになります。情報公開条例で開示されないことになっている個人情報まで詳細に記述させてしまうと,情報開示に際して墨塗りを施さなければならないこととなり,かえって県民らへの開示の範囲を狭めることになります。
 また,研修の「成果」は,授業など教育活動においてしか現れないのですから,一日につきA4版用紙1枚以上で「成果」を記せなどと,過大なノルマ(?)を課すこともまったく無意味なことです。
 今年の2月26日,2002(平成14)年度分の包括外部監査報告書が,知事,県議会議長,県教育委員会委員長らに提出され,そのなかで「研修結果報告書の記述内容については極めて簡単な報告で済ます者もいる等,まだ十分とはいえない状況にあるので,この制度を定着させるため今後の指導徹底の強化が必要である」との指摘がなされました。
 これを受けて,5月に,県教育委員会は「長期休業中の職務専念義務免除研修について」(高教第489号)で,各校長に「研修結果報告書への具体的な研修内容の記述について再度指導」するよう求めました。職場では,多くの校長,教頭らが,「結果報告書」の記載は1行ではダメで,もっとたくさん書けなどと指示して職場を混乱させています。
 そもそも,昨年度7月に県教育委員会が「例示」し,多くの学校で使っている「研修計画書」「結果報告書」が,まるで「出張許可願」と「復命書」のような形式をとっていることに混乱の原因があります。出張であれば,1日に1業務と単純であって,「出張許可願」には期日と用務先,行事名を記入する程度であり,「復命書」に,資料等を添付するなどして,はじめて詳細に内容を記すようになっています。ところが,態様の全く異なる研修について文書の様式を踏襲したため,「研修計画書」に,1日から最高5日間(月曜日から金曜日)までの期間をひと括りにし,そこにひとつのテーマを記すという様式になっています。これでは実態にあわない記述を強いられることになります(5日間にわたり,ひとつのテーマというのもおかしなものです)。「結果報告書」には,すでに「計画書」に記述してしまった研修内容を,重ねて書くことになります。

■改められるべき様式
 研修の場合,「出張許可願」と「復命書」のような様式ではなく,一定期間にわたり,その間に実施する複数のテーマ(たとえば,教科の授業に関すること〔それも,いくつかの項目に分かれる〕,特別活動に関すること,コンピュータの操作に関すること,修養に資すること,など多項目にわたる)について,その概略を示し,実施後には,計画通り実施したならばその旨を,変更等があればその概略を示すというのが,妥当でしょう。
 現状は,「出張許可願と復命書」というモデルを安易に流用したことに起因して混乱を生じているのですから,各学校で研修の内実をふまえた新様式を検討するなどの対応が必要でしょう。