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GATE−地下水脈の現前
小 泉 晋 弥
美術批評
像の出現の瞬間をつかみとる。
山田圭−の仕事には、表現の目標をそ こに絞った居合抜きの切れ味が感じられる。
それは、彼のオフジ工 TOKYO展でのデビュー作(1989)から、すでにはっきりと見えてい た。
百円ライターが八−モニカに見えた瞬間、
ライターはその姿を変え ることなく、八−モニカに変貌していた。
コニカフラザでの個展 (1992)で山田は 、
ブルースの流れる街角にたむろする男達を、材木 のブロックから出現させた。
ドリルとチ工−ンソーの生々しい跡を残し、
未完成に見えながら、
誰の眼にも、人であり、しかも男であることを感 じさせる、山田の確信に満ちた方法を見せた。
ここで私たちは、作者は 像の完成を目指しているのではなく、
彼が像を見いだした瞬間に制作を やめたことに気付く。
それによって作品は、泉が水を湧かせるように、いつも私たちに新し いイメージを提供し続けることになる。
私たちが、水たまりを泉だと知る のは
その形態からよりも そこから常に水があふれ続ける、絶え間な い運動によってなのである。
彫刻として完成することが、 石で作った泉 のように形態を団定することであれば、
イメージの湧出は当然止まる。
私は、不用意に彫刻という言葉を使ったが、
作家の仕事は、彫刻か絵画 かを問わず、泉のようにイメージを湧かせ続けることなのだ。
《GATE》で山田は、イメージの噴出場所の提示を試みる。
巨大な扉 が、開きかけたままで、すでに崗れ落ちようとしている。
この内側に回 つても、別の世界が作られているわけではなく、
ただそこに扇が立ち尽 くしている。
この門の仕上げや姿形を、彫刻作品として鑑賞しようとしても、
そのスケールによって、全体を眺めわたすことが困難である。
私 たちは、ただ門の崩壊の現場に立ち会わされていることになる。
何が崩壊するのだろう。
この世界とむこうの世界を分けているものが 崩れているのだ。
私たちが世界の片側にしか属せない以上、
二つの世界 の境界に立つ門が崩れることによってしか、もうひとつの世界はその姿 を表すことはない。
リンゴの皮が、虫や病原菌によって破られなければ、 私たちはその中身を眼にすることはできない。
泉が大地と水脈の双方の ほころびであるように、この門は二つの世界の境界のほころびの姿としてあるのだ。
この扉の内外を巡るうちに、崩壊にまつわる様々な思いが、心の中か ら湧き上がってくるのを感じるだろう。
ベルリン、ソビ工卜連邦、臨界事故、…‥・
そのイメージの噴出が、この作品をきっかけに起こったのだとすると、
それらは作品が表そうとしたものだといえるのだろうか。
作 品の言葉を間違って解釈しているのではないだろうか。
ペンヤミンによれば、翻訳は言葉を別の言葉に置き換えるのではなく、
二つの言葉の間に、ある物事の純粋な姿を出現させることだという。
美術におけるイメージの出現も、これと同じ構造だろう。
現実の物体を使 いながら、その世界の裏側にあるものを垣間見せる。
ただし、翻訳と同 じように両者が確実にある物事を共有していなければ、メッセージは私 たちには届かない。
地下水脈の地上への噴出点を探る作業が制作なので あり、《GATE》はそのようにして探られた場所である。
その開け放た れた扉の内側にあるもうひとつの世界は、こちら側の人問には直接見 えないのだ。
ただ、ここに扉があることによってそれは示されるのだ。
そしてその場所で作者が、確かに感じ取った同じ泉でも、
湧きだす水は 私たち一人ひとりが飲む番になれば、すべて違う水なのだ。
さもなけれ ばそれは死んだ泉である。
別室に展示されるドローイングは、
普通の墨や顔料ではなく、このギ ャラリーの下から掘り出した土で描かれている。
一見して、水墨画に似 るが、
内面表出という袋小路に落ちいったものではなく(噴出して枯れ ない内面など、誰がもっていただろう)、
自然に形成される山容をなぞ り、谷文晁の写生風の表現に近い。
赤土の鉄分の多い部分と、少ない部 分が作る空気の層が、
必要最小限の筆触で紙の上にやまなみのイメージ を浮かび上がらせている。
紙の上の土は現実に土でありながら、山の姿 となって宙に浮かんでいる。
二つの姿を同時に見せるあり方は、 《GATE》と同じく、 境界線上にあることを示すのだ。
実は《GAT∈》 もまた、掘り出された土によって作られている。
絵画と思われたドロー インクと、彫刻と思われた《GAT巨》が、
同じ原理によってイメージを出 現させている。
それによって《GATE》は、
彫刻一般に人々が感ずる、 どこを見ればよいのかと人を迷わせる性質
(それは、作品としての完結 を目指しすぎる傾向からくるだろう)
を超えて、扉そのものの現前に立 ち会わせる。
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